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最高裁判所第二小法廷 昭和47年(オ)899号 判決 1973年3月16日

主文

理由

上告代理人小出良政の上告理由第一点について。

原判決の事実摘示に、第一審判決摘示の事実を引用する旨の記載を欠いていることは、所論のとおりであるが、右記載の欠缺は、原判文自体から明白な誤謬と認められるばかりでなく、本件記録によれば、原審が昭和四七年八月二四日付の更正決定をもつてこれを補正したことが明らかであるから、前記の記載の欠缺をもつて原判決に所論の違法があるとすることはできない。論旨は採用することができない。

同第二点1について。

原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、貸付をなすべき債務の履行としての所論の金員給付義務は、本件担保供与義務の履行の提供の有無にかかわりなく発生しているものというべく、また本件担保供与義務の履行の提供と共に被上告人の請求があつたときは、上告人は右金員給付義務につき履行遅滞の責に任ずべきものである。原審は右と同旨の判断をしたものというべく、その判断は正当として首肯することができる。原判文を通覧すれば、原審が、所論のように、本件担保供与義務の履行が完了されないかぎり、上告人の金員給付義務が発生せず、または上告人においてその履行遅滞の責に任ずべきものではないという趣旨で、本件担保供与義務につき先給付の関係を認めたものと解する余地は存しない。したがつて、右のような先給付関係の存在を前提として原判決の違法をいう論旨は、その前提を欠き理由がない。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点2について。

原審が要物契約としての消費貸借契約の成立を認めたものでないことは、原判文上明らかであり、また所論の給付義務は、金銭の支払を内容とするものであるから、直接強制の方法による強制執行に親しむものである。所論の原判示は、本件担保供与義務の強制執行の方法に関する説示であつて、所論の金員給付義務のそれに関するものではないこと、原判文上明らかである。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原判決を正解しないか、または独自の見解に基づき、これを攻撃するものであつて、採用することができない。

(裁判長裁判官 岡原昌男 裁判官 村上朝一 裁判官 小川信雄 裁判官 大塚喜一郎)

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